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相続法改正について①

相続法改正について① | エクシード法律事務所

 平成28年6月21日に法務省の法制審議会民法(相続関係)部会において「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられました。この内容についてはバンクビジネスでも原稿を書かせて頂きましたが,さらに詳細な内容をブログで説明していきたいと思います。なお,現在,中間試案に対するパブリックコメント(パブコメ)を踏まえて,法制審議会においてさらに検討しているところです。平成29年内には要綱案の取りまとめを行いたいようです。

 さて,今回は,配偶者の居住権を保護するための方策について解説します。

 中間試案では配偶者の居住権を保護するための方策として「短期居住権」と「長期居住権」という新たな権利を設けることが提案されています。今回は短期居住権に焦点を絞ります。

 そもそもなぜ配偶者の居住権を保護する必要があるのかという点があります。これについては法制審議会の検討課題では「配偶者の一方が死亡した場合に,他方の配偶者は,それまで居住してきた 建物に引き続き居住することを希望するのが通常であり,特にその配偶者が 高齢者である場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を始めるこ とは精神的にも肉体的にも大きな負担になると考えられる。また,相続開始 の時点で,配偶者が高齢のため自ら生活の糧を得ることが困難である場合も 多くなってきていることから,配偶者については,その居住権を保護しつつ, 将来の生活のために一定の財産を確保させる必要性が高まっているものと考 えられる。 このような観点から,残された配偶者の居住権を保護するための方策を検討すべきであるとの指摘があるが,どのように考えるか。」として掲げていました。

 要は,夫または妻を亡くしたときに,生存した配偶者としてはその自宅に住み続けたいと考えるのが通常であり,高齢化社会の進展により相続によって引っ越しを余儀なくされるのは酷なこともあるということで,生存した配偶者の居住権を確保しようという考え方になります。

 今回のテーマである短期居住権とは,配偶者は相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には遺産分割により当該建物の帰属が確定するまでの間は引き続き無償でその建物を使用することができる権利とされます。

 無償と言っても,中間試案では当該建物の「通常の必要費」は居住する配偶者が負担することとされています。「通常の必要費」とは,例えば,固定資産税などがこれに該当します。ですから,「無償」ということは,賃料相当額を他の相続人に支払う必要がないということです。そして,この短期居住権によって配偶者は有形無形の利益を得たとも言えますが,それは具体的相続分には参入しないこととしています。

 短期居住権はあくまでも配偶者を保護すための権利ですから,これを第三者に譲渡したり,当該建物を賃貸に出したりすることは許されません。このようなことがあった場合には他の法定相続人は短期居住権の消滅請求をすることができるようになります(中間試案では単独で請求できるとなっていますが,パブコメでは持分の過半数を要求する意見もありました。)。

 中間試案では,「配偶者は,短期居住権が消滅したときは,当該建物を相続開始時の原状に復する義務を負う」とされています。ですから,遺産分割などによって自宅を明け渡すことになったときには原状回復義務を負います。

 短期居住権の期間制限は特に明記されていませんでしたので,実務上,遺産分割事件などでは短期居住権を有する配偶者が協議成立に消極的な態度を取りかねないという懸念もありますが,調停は成立しなくても遺産分割事件が審判になれば強制的に結論が出る話ですし,過度に心配しなくてもいいように思います。

 また,中間試案では,遺言などによって配偶者以外の者が自宅を取得するとなった場合でも,配偶者は相続開始から一定期間(例えば6か月間)は無償で自宅を使用できるという内容にもなっています。ちなみに,この場合に短期居住権消滅請求ができる者は自宅を取得する者に限定されるとなっています。

 なお,ここに記載されていることは,あくまでも相続法改正の中間試案についてですから,現行法や実務が既にこうなっているということではありませんので,ご留意ください。

 平成28年12月1日

 弁護士 鈴木 俊

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